ブログネタ
イタリアワイン に参加中!
「サイドウェイ(SIDEWAYS)」という映画をご覧になったことがあるでしょうか?
自称作家の冴えない叔父さんが、彼の旧友でものある落ち目の2枚目タレントをつれて
ワイナリー巡りをする、少しほろ苦さの残るヒューマン・コメディーです。
教科書レベルのワインについての見識があれば
「おい、おい、そこは違うだろ!」いう突っ込み所が満載な上(明らかに原作者は狙ってます)、
またそのような指摘を入れる事のできる自分自身に「俺はワイン知っているな〜」と、
アッコマッソのマセレーション期間よりも長くディープに自己陶酔に浸れるという、ワイン・ラヴァー必見の映画です。

作品の中でこの冴えない叔父さんが、逃げた女房とよりが戻った折に一緒に飲もうと後生大事にとっておいた「Cheval Blanc(シュヴァル・ブラン )」を、とある事情で場末のファーストフード店で店員に隠れながら紙コップでヤケ酒を飲むという
なんとも痛々しいシーンがあります。

しかしこれはあくまでコメディ映画の話で、現実にファーストフード店やファミレスであって、
本当にシュヴァル・ブランをワインリストに載せていたら、ちょっと話はややこしくなります。

「いつかは有名なワインを飲んでみたい」と憧れているワイン初心者にとって、
気軽に外食を楽しみながら、小売価格に近い価格で飲めるというのは願ってもないチャンスでありましょう。
しかし、小規模の農家と長い時間をかけて人間関係を築きながら
日本国内で地道に営業努力をしながらブランドを育ててきたインポーターさんや販売店さん、
また、そのワインに対する「信奉」や「敬意」を抱いているコレクターの立場からすれば、
かなり複雑な想いを抱くのではないでしょうか?

ましてや「まともな造り手」ならば、自分たちが精魂込めて造るワインがどのような店で、
どのような品質で提供されているのか、レストランならばどのような料理と共に売られているのか、
気にならない者はいないと思います。

もしも「牛めしの松屋」の食券自販機のメニューの中に、
ビールのボタンの隣に並び、ルロア「ミュジニー」あったらどうなるでしょうか?
間違いなく、ラルーさんは3日泣き続けると思います。

第一、ブランドを育ててきた高島屋が黙っているはずがない。
目つきの鋭い樽のような大男達が束になって「ウチの姉御に何て事してくれたんだ!」と松屋本部に殴り込みに行くでしょう。
そもそも顧客構造が違う業態に高単価の商品をスポット的に置いて、
劇的に収益が増すとは考えにくいですし、生産者、販売元、飲食店、さらには飲み手まで誰一人得をしないでしょう。

そう考えると、ワインを美味しく飲む「装置」としてのレストランの役割がよく理解できます。
やはり偉大なワインは、相応しいグラス、最適な温度で、美味しいお料理と共に頂く努力をする事が、
造り手とワインに対する敬意を払うことにあたるのではないかと思います。
たとえ自宅であっても、彼女や奥さんの美味しい手料理や、
デパ地下で買ってきたこだわりのお総菜と共に頂きたいと、考える方も多いのではないでしょうか?

さて、あのバローロ伝統派の奇才「Giuseppe Rinaldi(ジュゼッペ・リナルディ)」のワインですが、
なんと某イタリアン・ファミレス・チェーンで飲める事を、当該グループ子会社のサイトで知りました。
「ほんまかいな?!」と我が目を疑いましたが、確かめるべく、まずは小岩へ。
なんと、本当にありました!
以前「葡萄酒蔵ゆはら」さんのメルマガで、「幻」と呼ばれていたワインは、もはや幻ではありません。
酒喜屋の大ちゃんが「輸入元からの割り当てが年々少なくなっている…。」と言っていたワインが
店内のセラーにゴロンゴロンしています。

リナルディ@サイゼリア5
状態を確かめるべく、Barolo Cannubi-Ravera 2004 をオーダーしました。
タバコの臭いが漂う禁煙席、キンキンに冷えたボトル、形状の異なるコンパクトなグラスが2脚…。
このくらいは、小学生のお小遣いで食べられるファミレスとしては、しかたないのかもしれません。
でも、バルベーラやドルチェットをひっくるめて「ダルバ」は、ねーだろ!
リナルディ@サイゼリア4リナルディ@サイゼリア6
ワインの状態は、クローズしているのか、温度が低すぎたのか、全く香りが上がってきませんでした。
若いヴィンテージ、エッジは既に煉瓦色がかっていますが、液中にタンニンが舞っています。
酸はカンヌビらしい直線的な酸がありますが、石灰質からくる特有の香りは控えめ。
アタックはとても柔らかく、ネッビオーロ特有の強いタンニンが喉を収斂しますが、ザラついた印象はありません。

リナルディ@サイゼリア2
バローロとマッチしそうな料理をメニューから見出すことはできませんでしたが、適当にオーダーしてみました。
アラビアータは…… パスタはふやけて、ピリ辛のケチャップ味やん。(ミネストローネかと思った。)
安い料理の単価はお財布に嬉しいですが、ワインとの出会いを飾るにはあまりに悲しい味です。
ナンのようなプチ・フォッカがワインの味を邪魔しないので、一番相性が良いかも。

客単の低い顧客構造の業態にもかかわらず、
1本7,000円のバローロをオーダーする僕らも相当場違いであると思います。
しかし一方で、ワインに対する敬意も見識も低いままの店舗が、
味が判らない客に対し高回転で売りさばいてしまえ、と画策しているかのような
「軽薄さ」のようなものを、当該チェーン本部の販売手法には感じます。
更に言えば、生産本数の限られた貴重なワインをバイイング・パワーにモノを言わせているかのような、
大企業の「あさましさ」「傲慢さ」も見え隠れしています。
(経営者の品性も推して知るべし、という誤解を対外的に与えないか心配です。)

又、果たしてジュゼッペ・リナルディ本人は、この惨劇を知っているのでしょうか?
ニコ・ベンサ(ラ・カステッラーダ)曰く、リナルディ自身もランゲ地区で厳しい条件下のもと自然派を貫き、日々ピジャージュの重労働を繰り返しているそうですが、
「在庫のワインが倉庫からベルトコンベアー式に消えさえすれば、それでよい」と考える程度の人物だったのでしょうか?

当該イタリアン・ファミレス・チェーンは、一時の痛快さに酔っているのかもしれませんが、
店舗のオペレーションや提供できる料理のクオリティにおいては、
奇才リナルディのワインを愛してやまないバローロ・ファンを得心させるようなレベルには悲しいまでに及んでおらず、
結果的に、「飲み手」「売り手」「造り手」それぞれの立場で失うモノの方が大きいと思います。

尚、リナルディのワインは、当該イタリアン・ファミレス・チェーン子会社の酒販部門からネット購入が可能とのこと。
自宅で手作りの料理と楽しむのが良いのかも知れませんね。

それにしても、ピザ生地原料の中国製小麦からメラミンが検出される様なレストラン・チェーンに、
ワインを納入したい自然派の生産者がいたこと自体に、僕は理解に苦しみます。

リナルディ氏の姿勢に疑問を持った今、熟成後を楽しみに寺田倉庫に預けてあるリナルディ氏のワイン達は、
ロザエも含め早々に処分しようかと考えています。

文化・芸術を目の前にし、その本質を知ろうとぜず
経済合理性のもと、インスタントで
上っ面の部分だけを盗み改変する楽しみ方に慣れた日本人の感受性に対し、
危機感を憶えずにはいられません。

世の中には自らすすんで学ばなくては、
その価値を深く楽しめないこと、
お気楽・お手軽にしてはいけないことが少なくないのです。

生産者の想いや苦労に報いる為にも、もうちょっとメニューやオペレーションを改善し、
ワインの味わいを美味しく楽しめるような工夫を
日本を代表する大企業である当該チェーン様には、お願いしたいものです。

※その後ピザ生地の小麦はアメリカ・カナダ産に切替えられ、販売が再開されました。